現代社会では、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントだけでなく、アカデミック・ハラスメントやアルコール・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントなど、多くのハラスメントが存在しています。
そのなかでも、今回お話ししたいのは、伝統的なハラスメントである、セクシャル・ハラスメント(相手方の意に反する性的な言動による嫌がらせ)及び、パワー・ハラスメント(地位や人間関係の優位性を背景に、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為)の加害者にならないため私が意識していることを紹介したいと思います。
それは端的に、他人事ではなく「自分も気を抜いたら加害者になる」と常に意識することです。
間接的に見聞きするものも含めて、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントの事例に接することがありますが、加害者の中には、ハラスメントを意識的にしている方はそれほど多くない印象です。セクシャル・ハラスメントについては、性的な言動であると認識していても被害者は本気では嫌がっていないとの認識であったり、冗談の範疇であると認識している例が多いです。また、パワー・ハラスメントについては、部下のため、後輩のためと確信して、ハラスメントを行っている例も多く見られます。
私の印象としては、ハラスメント加害者の人の多くは、自分と他者との価値観の違いを尊重せず、自己の価値観の下での判断を独善的に他者に押し付けた結果、価値観の異なる他者を傷つけているのではないかと考えます。
価値観は人それぞれ異なるものであり、自己の価値観に基づいてした言動は常に他者の価値観とぶつかる可能性があります。いろいろなハラスメントの定義や具体例についての知識を深めることも重要ですが、それだけでなく、常に自身の言動がハラスメントとなり得る自覚をもって行動することが、ハラスメント加害者にならないための一番の対策だと考えます。
時折、SNS等で、ハラスメントの種類が増えたことにより、肩身が狭い、息苦しい、生きづらい世の中になったという意見を目にすることがあります。そのように思う方々は自身の奔放な言動により、他者を傷つけてきたかもしれないと、これまでの経験を回顧し、みんなが他者を思いやる新しい世界に向けて一歩踏み出してはいかがでしょうか。
令和3年6月25日
弁護士 伊 藤 龍 太