インターネットやパソコンが普及する以前は、弁護士は、法律事務所において、依頼者との面談・文書作成・電話やファックスの連絡への対応等の業務を行い、裁判所の期日がある時は、裁判所に実際に赴いて出頭し、調停や弁論、尋問等を行っていました(遠方の裁判所に所要時間5分の期日のために直接出向いて出頭しなければならないこともありました。)。

 現在でも、従来のスタイルが維持されている部分はありますが、様変わりしていることも多く、例えば、

  1. (ノート)パソコンを活用し、自宅や出先等で文書作成を行う。
  2. 依頼者とメール等で連絡を取る。
  3. 裁判所の期日に、電話会議による方法で出頭する。
  4. 判例・文献調査は、図書館ではなく、インターネットのサービスを利用する。

等、法律事務所という場所や、直接出向く・対面等の方法に縛られずに執務することが増えました。

 一方、裁判所は、長らく、各訴訟法の決まりに従って「対面、郵送、電話、ファクシミリ」の方法を取っており、インターネットを利用しない時期が続きました。

 しかし、2017年6月、閣議決定により裁判手続等のIT化を推進する方針が決まり、2020年2月から一部の地方裁判所でウェブ会議等を活用した民事訴訟の争点を整理する手続の実施が開始し、対象の裁判所が順次拡大しています。

 また、既に、東京や大阪の裁判所の一部の事件では「民事裁判書類電子提出システム」(mints)の運用が開始しており、今後、高等裁判所所在地にある地方裁判所の運用が開始される予定です。

 このように、裁判手続のIT化は段階的に進められている真っ最中であり、将来的には、民事訴訟の訴え提起から判決まで全てをIT化することになっています。

 なお、福島県内では、本庁および全ての支部で、民事事件におけるウェブ会議に対応していますが、電子提出システムはまだ始まっていません(2022年11月16日時点)。

 上記のような「脱・対面」の流れについては、新型コロナウィルスの感染拡大が拍車をかけた側面があります。例えば、2020年の春、多くの裁判所期日が延期になり、裁判手続が停滞したこともあって、2021年4月には、最高裁判所が下級裁判所に対して、「感染拡大防止と司法機関としての機能の適切な維持の両立のために、感染防止対策を徹底しつつ、電話会議やウェブ会議等の出頭を要しない手続を活用しましょう」と通達を出しました。今後感染拡大状況がどうなるかは不透明ですが、「脱・対面」の流れは変わらないことと思われます。

 そうすると、今後、弁護士としても、法律事務所や自宅からパソコンで期日に出頭、議論し、書面を提出し、と、オンラインで完結することになるので、裁判所に出向く機会は益々減って行くのだろうと思われます。

 遠隔地への移動時間を削減することで本来業務に充てられる時間が増えたことや、ペーパーレス化を図ること、郵送等の時間・費用を節約できる場面が増えること等、IT化によって業務が効率化することはありがたいと思いますし、社会的にも紛争解決手続が迅速・円滑化することは望ましいことだと思います。

 他方で、パソコン等の情報機器にアクセスできない人が裁判所の手続を利用することができるよう、日本国憲法で保障された「裁判を受ける権利」を確保し続ける手段を講じる必要があると考えます。

 また、弁護士の仕事は、人の心に寄り添うことを必要とするので、どんなにIT化が進んだとしても、対面でのコミュニケーションの重要性は失われないのではないかと思っています。

以上

 弁護士 横山 友子