8月2日、日弁連主催の高校生模擬裁判のオンライン大会が開催されました。
 高校生模擬裁判は、18回目となる長年に続く行事で、刑事裁判記録を題材に、高校生が、検察官役、弁護人役に別れて、刑事の模擬裁判を実施する企画です。関東大会や関西大会等、リアル会場でも開催されておりますが、私は、オンライン大会の運営側として、今回参加しました。
 オンライン大会では、福島県、宮城県、岡山県及び福岡県から各1校が参加し、各校が他2校と計2試合行います。福島県からの参加校は、1試合目は検察官役の立場で福岡県からの参加校と、2試合目は、弁護人役の立場で岡山県からの参加校と対戦しました。

 各校の生徒が行う尋問は、大変優秀で、弁護士が行う尋問と比較しても遜色ないと思わせるほどでした。事実と評価をきちんと区別し、きちんと、目撃者がどのような状況で何を見たのかという事実を丁寧に聞き取っていました。また、目撃者の視力や、目撃者が犯行日前にどの程度被告人を目撃していたのか等、犯行日当日の事情以外についても丁寧に聴き取っていました。
 また論告・弁論も皆さん、尋問や被告人質問で引き出した事実を、丁寧に評価し、自身の立場の結論に説得的に論じていました。特に私が驚いたのは、弁護人側の高校生が、一見すると被告人が犯人である方向に働く事情について、説得的に、このように評価すれば被告人に有利な事情であると主張していました。
 このことが、有罪無罪の結論に大きな影響を与えるものではありません。しかし、一見すると、被告人に不利に見える事情について、徹底的に被告人の立場になって、被告人に有利に構成するにはどのように評価すればよいかを考え抜いた結果なのだろうと思い、感動を覚えました。
 もちろん、今回大会の準備においては、各校に支援弁護士が複数名つき、尋問のやり方や論告弁論の考え方、刑事裁判の基本的な考え方等について支援がされてきましたが、そのことを踏まえても、本人たちのとてつもない熱意や努力を感じるいい大会でした。

 直近の選挙では、SNS等で表面的で一面的に切り抜いた政治的主張が爆発的に拡散し、強い影響力を与えることがあります。SNSでは、ある方向性の政治的主張を見ていると、同じ方向性の主張ばかりが流れてくる傾向があり、知らない間に、偏ったものの見方に陥ってしまうことがあります。今回の高校生模擬裁判に運営側として参加しましたが、同じ人が、同じ事実を検察官役、弁護人役という対立する立場で、評価、検討するということは、冷静かつ的確に物事を考えるために、現代では特に必要なことであると感じました。
 また、勉強に部活に、忙しい高校生が、わざわざ夏休みにこのような大会に、事前準備から精力的に取り組み、大会本番では弁護士と遜色ない訴訟活動している姿に触れ、本人らの優秀さもさることながら、やはり意欲がある人の成長はすごいのだろうなと感じました。
 私は高校時代、あまり意欲的に勉強に取り組んでいませんでした。しかし、勉強しなかった高校時代を悔やんでも仕方ないので、最近は仕事の昼休みや帰宅後に、意識的に本を読むようにしています。いつからでも始めるに遅いことはないだろうと信じ、今回見た高校生たちに負けないように、いつまでも成長していきたいと感じました。

 令和7年8月5日
 弁護士 伊 藤 龍 太