私は、司法試験合格を目指して大学院で勉強したころ、法律を勉強していない友人に、「何で弁護士は犯罪者の味方をするの」、「犯罪者を弁護する必要あるの」などと言われたことがあります。法律家でない方々の中には、犯罪事実を行ったと嫌疑をかけられている者(起訴される前は「被疑者」といい、起訴されて刑事裁判の当事者となると「被告人」といいます)を弁護する刑事弁護の必要性について疑問がある方もおられると思いますので、少しご説明したいと思います。

 弁護士は、被疑者段階では、黙秘権等の被疑者の権利が正当に行使されるように助言を行ったり、不当な身柄拘束がなされないように、裁判所に対し身柄の解放を求めたりします。また被疑者・被告人が、犯罪事実について争うときは、弁護人は被疑者・被告人からよく話をきき、有利となる証拠を裁判所に提出したり、検察官の立証の不十分さを指摘するなどして、裁判所に、被告人がその犯罪事実を行った事実が認められるかどうか適切に判断してもらうようにします。また被疑者・被告人が、犯罪事実を認めているときには、被害者との示談の成立を助けたり、裁判では、被告人に科される刑罰が適切なものとなるように、被告人にとって有利となるような事情(被害者との示談が成立していることや、被告人が反省していること等)を裁判所に提出します。

 弁護士が、なぜこのように被疑者・被告人を弁護するのかについては、歴史的経緯が関係します。人類の歴史の中で、国家の意に沿わない者たちに対する不当な捜査や裁判が行われ、身体拘束や生命、財産の侵害が行われてきました。そして現在でも、クーデター等により国家機能が健全に機能せず、適切な手続保障がされないまま、身体拘束や、裁判を受けなければならない人たちがいます。

 国家権力の国民に対する捜査や刑罰を科す作用が、適切に行使されないとき、生命や身体の自由、財産権等の基本的人権はいともたやすく侵害されてしまいます。また、国家の意に沿わない者たちに対する不当な捜査や裁判により、刑罰を科すことを許せば、国家の意向に反対する者がいなくなり、国家権力の暴走を止められず、より一層、国民の基本的人権が侵害される状況となります。

 このように、国家権力が国民に刑罰を科す作用が適切に行使されることは、国民の基本的人権を擁護するためにとても重要です。日本国憲法では、第10条から第40条で、「国民の権利及び義務」として、表現の自由や思想良心の自由を定めていますが、そのうちの第31条から第40条は、国家が国民に刑罰を科す作用が適切に行われることを保障した規定です。

 そして弁護士法は、弁護士の使命について「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と定めています。弁護士は、被疑者・被告人を弁護することにより、彼(女)らの基本的人権を擁護するとともに、国家の刑罰を科す作用が適切に行使され、もって社会正義が実現されるようにすることを目指しています。

 すなわち、刑事弁護は、単純に被疑者や被告人の権利の実現をするだけにとどまらず社会正義の実現という、国民全体の利益にも資する活動であることをご理解いただければ幸いです。

                       令和3年3月24日

                      弁護士 伊 藤 龍 太