先日公表された男女平等の一つの指標とされているジェンダーギャップ指数の世界ランキングでは、日本は125位と、昨年の116位からさらに後退しており、男女平等について相当な後進国となっている状況です。

 私は、福島県弁護士会で性の平等委員会、日弁連では両性の平等委員会、福島県では男女共同参画審議会に所属し、日々、性の平等や女性の活躍について考えています。女性の社会進出の促進は、多様なバックグラウンドを持った方々が社会に関与することにより、特定の人や属性の方に利益や不利益が集中しない社会になり、みんなが生きやすい社会になる一助と考えます。

 男女平等を実現するアプローチとしては、大きく分けると2つのアプローチがあります。1つは、女性であることに着目して特別に保護する(利益を与える)もの、2つ目は、男女の区別をなくすものです。

 1つ目のアプローチの例としては、東京工業大学で、令和6年4月入学に関する入試から、通常の入試枠とは別に女性枠を設けることが予定されています。このアプローチは主に、女性の進出が進まない分野でこれを促進する方法として用いられます。
 2つ目のアプローチの例としては、都立高校で、令和5年度入試から男女別定員制を廃止する方向で議論が進められています。このアプローチは主に女性の進出が進んだ分野で、男女を区別していることが女性の進出の障害になったり、不利益につながったりしている場合に、これを是正するために用いられることが多いです。
 それでは、女性の進出が進んでいない分野には1つ目のアプローチをとり、それが一定程度進めば、2つ目のアプローチをとればいいだけの話ではないかとも思います。
 しかし、話はそう単純ではないのです。

 日弁連でも、副会長や理事についてこれまでの副会長及び理事の枠に追加して、女性枠を設けています。これにより、日弁連の活動や意思決定に女性弁護士の進出を進めようという活動です。この制度により、日弁連の執行部や意思決定機関に確実に女性弁護士が参加することが可能となりましたが、他方で必ず、女性弁護士の誰かが、女性副会長や女性理事の負担を担わなければならないということになります。またその分、本業やプライベートに費やせる時間にも影響が出ます。日本の弁護士のうち女性弁護士の割合は19.8%(令和5年6月1日現在)、男性弁護士に比して圧倒的に人数が少ないため、負担が偏ってしまう可能性もあります。女性弁護士の利益や権利実現につながる制度が、女性の負担を大きくしているのです。

 ある分野について女性の社会進出が進まない原因は、かつての「男は仕事、女は家庭」といった価値観を背景として、女性が育児や家事をしながら参加することが難しい、つまりは時間的、肉体的、精神的な負担が大きいということが考えられます。
 これまでは、家庭を犠牲にして、男性が女性の社会進出が進まない分野を担ってきた一面もあります。しかし、今後、女性の社会進出を進めていくためには、単に女性の枠を設けるだけではなく、並行して、その参加に伴う負担や障害を分析し、その軽減や排除を積極的に検討されなければなりません。例えば子ども送迎の関係で、時間に制約がある場合は、送迎の時間に影響がないようにする等の調整が必要となります。
 働き方改革が進み、人生の質に着目されるように、男女問わず、働いている時間以外の時間の使い方について注目されています。現在は、男性が育児や家事を担う家庭も珍しくなくなっています。
 女性の社会進出を促進するために、女性の社会進出が進まない分野や役職の負担や、女性参加の障害を考えることは、その分野や役職の不要な負担等を見直すことに繋がり、これまでその分野を担ってきた方々の負担軽減にもつながると考えます。

 日本でも女性の社会進出を促進するための取組みをしてはきましたが、冒頭のジェンダーギャップ指数の世界ランキング結果のとおりであり、女性の社会進出を促進することは簡単なことではありません。

 私は、今後も、冒頭で紹介した委員会等での活動を含め、みんなが生きやすい社会の実現につながるかという視点を大事に、女性の社会進出や性の平等の実現に継続的に関与し、少しでもジェンダーギャップの解消に関われればと思います。

令和5年7月5日   
弁護士 伊 藤 龍 太