私が子どもの頃、年末になると父の実家では、かまどで、もち米を蒸して、のし餅や鏡餅を作りました。鏡餅は熱いうちに手早く丸めないと、きれいな形になりません。もたもたしていると表面にシワが寄ってしまうので、時間との勝負です。手を真っ赤にしながら、つるんときれいな鏡餅ができると、誇らしい気持ちになりました。

丸餅を紫色のしその葉で挟んで、しそ餅にしたり、豆を混ぜ込んで豆餅も作ります。なによりも、つきたてのお餅のやわらかくておいしいこと!できあがって、ずらりと並べられた餅は壮観で、餅つきは楽しい行事でした。        

祖母が作る、あんこも美味しかったけれど、うちで「せいもち」と呼んでいた、くるみ餅が私は一番好きでした。

ネットで調べてみると、福島県田村市では「さいもち(せいもち)」といい、じゅうねん(白エゴマ)と豆腐をすり混ぜて、砂糖と醤油で甘じょっぱく味つけをしたものに、餅をからめて食べるのが一般的なようです。

祖母が作る「せいもち」は、じゅうねん(白エゴマ)ではなく、くるみを使っていましたが、お豆腐が入っているからか、とてもなめらかで、やさしい味でした。お正月や行事があると食べる「せいもち」でしたが、手間がかかる料理なので、今思うと作るのは大変だったろうなと思います。

秋に収穫した大量の鬼くるみの固い殻を一つ一つ割って中味をとり出し、大きなすり鉢で、くるみと木綿豆腐を丁寧にすり混ぜて、鍋で煮ながら醤油と砂糖で味をつけます。くるみの香ばしい香りがしてくると完成です。祖母の手伝いをしながら、出来上がるのをわくわくして見ていました。

祖母が亡くなってから、自分でも市販のくるみで、せいもちを作ってみましたが、昔食べたあの味になりません。鬼くるみでないと、あの味は再現できないのかもしれません・・。    

私にとって祖母の「せいもち」は、懐かしくずっと覚えていたい味の一つです。

事務局S